株や絵画に投資するよりもフェラーリのクラシックカーに投資するほうが、リスクも少なく安心という世界のようです。
1961年、日本の年号でいえば昭和36年生まれの人は、今年の誕生日で満55歳を迎える。高齢者と呼ぶにはまだ早いものの、役職定年を迎えて子どもも独立しているような人もいるような中高年世代だ。
その彼らと同じ年に製造された自動車に、20億円前後の値札が付くといったら驚く人は少なくないのではないだろうか。業界用語で表現すれば「55年落ち」の中古車、いや旧車にである。
仏オークションでは、約21億円の高値に
昨年2月、フランスで開かれたクラシックカーのオークション。そこに出品された1961年製の「250 GT SWBカリフォルニア スパイダー」と呼ばれるスポーツカーが1630万ユーロで落札された。
しかも、ピカピカに輝かれチリひとつない滑らかなレザーに包まれたインテリア……を備えているワケでもなく、塗装もはがれ、ボディも傷だらけだったにもかかわらず、直近レートで換算して約21億円という、とんでもない価格で取引された。
アドルフォ・オルシjr氏がまとめているクラシックカーオークションブック
この車をつくったのは、あのフェラーリである。新車でも数千万円以上の価格で販売されるフェラーリは、クラシックカーにおいても圧倒的な強さを見せている。
世界中のカーオークションにおける出品・落札データをまとめているイタリア在住のアドルフォ・オルシJr氏によれば、2014年9月~2015年8月の1年間に、世界中のカーオークションで出品されたクラシックカーの落札価格トップ10の7台、トップ100のうち52台をフェラーリが占めた。
歴代落札価格の最高記録も当然フェラーリだ。2014年8月に米国・モントレーで行われたオークションで、1962年製のフェラーリ「250GTO」が3800万ドル(約36億円)で落札された。
フェラーリを中心に、クラシックカー市場はかつてない規模まで拡大している。前出のオルシJr氏によると、直近の集計である2014年9月~2015年8月の1年間は主要オークションにおける取引金額が初めて10億ユーロ(約1200億円)を超えた。20年前と比較すると25倍前後まで膨らんでいる。
株や絵画よりも投資価値が上がっているクラシックカー
あるクラシックカーの価格は、この10年で5倍以上になったという。筆者の周辺のフェラーリオーナーに聞いても、保有しているフェラーリの中古価格が5年ぐらいで5倍ほどになっている事例もある。絵画やアンティーク家具のような昔からの定番コレクションが、逆に値崩れしているにも関わらず、もはやフェラーリをはじめとするクラシックカーは金融商品のような側面も持ち合わせている。最近のプライベートバンクやファイナンシャル・コンサルタントが「株や絵画に投資するよりもフェラーリのクラシックカーに投資するほうが、リスクも少なく安心だ」とあおるぐらいだ。
『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ~伝説を生み出すブランディング』(越湖信一著、KADOKAWA)。上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
クラシックカー市場が大きく伸び始めたのは2000年初頭。スーパーカーの新車マーケットが大幅に落ち込んだリーマンショック直後も、クラシックカー市場は伸びが鈍り、成長が少し停滞したぐらいだった。その後は右肩上がりで拡大してきている。今年は年明けから世界の株価や原油相場が下落するなどリスクマネーの収縮もみられるものの、クラシックカー市場においては、これまでの流れは大きく変わらないだろうという予測が、関係者の間で飛び交っている。
クラシックカー市場が拡大している要因は大きく2つある。ひとつは「キング・オブ・スーパーカー」であるフェラーリのブランド戦略だ。
創業者エンツォ・フェラーリの神話と、モータースポーツの頂点でもあるF1でのヒストリーをバックボーンに、ブランドの希少性を高めていったフェラーリは他の自動車メーカーに先駆けてクラシック・フェラーリの価値向上のための施策を手掛けた。
フェラーリ社が「価値あるクラシックカーとしての認定制度 フェラーリ・クラシケ」(クラシケ=クラシックの伊語)を設けたのは2006年のこと。その認定を受けたいオーナーはイタリアのマラネッロにあるフェラーリ本社のフェラーリ・クラシケ部門か、もしくは世界中にあるフェラーリディーラーへ行き、認定審査を依頼する。
すると、クルマごとに決められているポイントがチェックされ、そのクルマが生産された時と同じ状態のオリジナルを保ち、かつ、各部が正常に機能しているかが判断される。そしてそれらがフェラーリ・クラシケの基準に達していれば、フェラーリ社はそのクルマが「ホンモノ」であることを証明するのだ。