「僕はセンチメンタル」
僕はその歩道橋から過ぎ行く車をながめていた。
彼女が乗っていた車。赤い車。
赤い車なんてたくさんあるじゃないか。さがそうっていうのか。
さがしてどうする?立ち直りが悪いのはいつも男のほうらしい。
どう見ても男が女々しい。女が強くなるばかりだ。
女がいないと生きていけない僕はナンカおかしい。
女のコだったらそれなりに可愛いかなって思うけど、格好悪さが先立つ。
いまだに吹っ切れない。半年は短いのか?新しい恋でもしたら忘れるかな?
「そうだなあ」そのときポンと肩をたたかれた。
リクオの背中が大好き。こうやって街の雑踏にまぎれてしまって
風景にカムフラ-ジュされてしまっているところなんか
おもわずぎゅっと抱きしめたくなる。
「なあに・・そうだなあって」
「あれっユリ」
「ちょっとセンチメンタル入っているよ」
「そうかな」
「これからバイトなの。その途中にリクオがいたってわけ。」
私も歩道橋からリクオの隣に立って下を見てみる。ラッシュアワ-の
車がひしめき合っている。まるで車の河だ。
「なんかあぶないひとに見える」
「そうだよねぇ」
ちっとも男らしくない。リクオの声は優しい。
ずっと好きだけどいつも私はリクオの恋の傍観者。
クリスマスなんか一度でいいからいっしょにいたい。
何度考えたことか。その辺あたりは女と男の感じ方の違いなのか、
どうもリクオと私は友達のシ-ソ-を行ったり来たり。ずいぶん長い。
「まだ忘れていないの?」
「きつい所突っ込むね」
「完全にはね。なんか探している。彼女のアイテム。」
「優しいから。リクオは」
「たまに女のコにはアダになる」
私はリクオの前の彼女のいきさつを思い出していた。
「そういうリクオのこと私は嫌いじゃないよ」
「なんか言った?」
私は首をぶんぶん振る。
「またサオリ達と食事しようよ。おいしいお鍋の店みつけたんだ」
「あっ遅刻しちゃう。じゃあね」
私は手を振った。リクオの大きい手のひらが空に舞った。
やだぁ。きゅんきゅん言っている。わたし。
僕はユリのエビちゃんばりに巻かれた緩やかなウェ-ブヘアを
眺めていた。冷たい空気に跳ね上がっている。
ふいにおかしくなった。どうやら僕のセンチメンタルは無くなったみたいだ。
僕は歩道橋を降りて街のイルミネ-ションにまぎれる。
クリスマス前のざわめく群集が移動している。
僕は僕でいいのかもしれない。