「45歳のラ-メン」
ただ単にだらだらと年ばかりいってしまった。
結婚もしたことなければ恋なんていつしたか忘れた。
仕事だけは生活のためにだけせっせとやっているけど。
45歳の独身女性はバリバリ会社でも経営していれば
かっこいいけど、美貌も才能もそこそこだったりすると
はたから見れば哀しそうに見えるらしい。
別に私は悲しくないんだけど。元気だし。
地下鉄を降りて地上に出ると雪が降りはじめていた。
さすが今日はイブだ。やたらカップルが目につく。
「ラ-メンでも食べて帰ろっ」いそいそ歩きだす。
いつも行くラ-メン屋はすいていた。
「いらっしゃいませ」
「きょうはすいていますね」といったものの誰もいなかった。
「イブですからね。夜中に混むんじゃないかな」
「今日はバイトも遅番にしてくれって。若いもんは楽しいですからねぇ」
「じゃあ味噌ひとつください」
私より少し上の店長は手際よくラ-メンを作り始める。
「お姉さんは独身なの?」
「お姉さんだなんてぇ。さみしい独身お局さまです」
「店長は?独身?」
「俺はだいぶ前に女房とは別れたバツいちっ。」
麺の湯気がもくもくたちあがって通りに面したガラス窓が少しくもった。
「結婚って素敵でした・?」
「素敵・・すてきなもんじゃないですよ。はじめは素敵だったか。
でも現実の生活は夢物語ではないからね」
「でも楽しかったよ」
「はいどうぞ」出来上がったラ-メンはいい味噌の匂いが
鼻をくすぐる。ああしあわせ。
「お姉さん、でも女は捨てちゃいけないと思うんですよ」
「若いときは年をとる自分なんて、想像つかない。でも
年重ねたら重ねたでいい味はでるわけで」
「うちのバアさんなんか70過ぎてからあっうちはジイさんが先に
逝っちゃったんで70で恋愛結婚ですよ」
「肌なんかツヤツヤでさ」
あまりにその口調がおかしくて口もとを押さえた。
それから店長はバアさんの恋愛話を長々としてくれた。
「ごちそうさまでした」
「まだまだイブはやってきますよ。来年もその先も。チャンスは巡ると
信じていまっス。」
「店長もね」少し顔が赤らいだ感じがした。お金を払って店を出る。
飼い猫の竜之介が待っているだろうな。
そう思って私は雪の街にふみだす。ときおり風がふいて雪けむりが
道路にはじき出される。いつかきっと。私の手を少しだけ
しわくちゃになった手をそおっと。にぎってくれる人に。