「リクエストネ-ム」
「はいっじゃあ次の曲いきます」
「松田くんこれ次のリクエストFAXね」
「ああはい・・」
僕はそのFAXを見てちょっと驚いた。
(久しぶりです。久しぶりでいいのかな?)
そのあと一行空けて(はじめてリクエストします・・私は先週ここに
引っ越してきました。)その文字を忘れるはずもない。
毎日ノ-トを借りていたから。
「だってさぁ松田くんがDJだなんて。ああごめんごめんね」
けらけら笑う玲子を思い出す。当時僕らが高校生の時のDJといえば
花形スタ-みたいなものだった。
僕はあこがれていたけど放送の裏の仕事がしたかった。
気のきいたおしゃべりができるわけでもなかったし。
だけど僕はラジオのパ-ソナリティになった。
巡りめぐってマイクの前に座っている。
高校生の頃玲子と僕は放送部だった。僕はもっぱらミキサ-みたいな
ことばかりやっていたけど校内でも玲子は声よし、スタイルよし、それこそ
アイドル的な存在だった。FAXには本名はなかったけど
リクエストネ-ムが「たくあん」と書かれてある。
昔僕のおばあちゃんが、たまたま僕の弁当に手作りのたくあんを入れて
クラス中 僕の「たくあん」の匂いでむせかえったことがあって
その日から僕は「たくあん」というありがたくないあだ名を付けられた。
その後玲子は東京の大学に行き、アメリカの大学にも留学して
理系の博士課程を取ったといううわさだけは聞いていた。
(あまりいいことではないんですが、今はシングルマザ-です。ここに来て
初めてのクリスマスなので人恋しいのかも。松田クンは誰かとクリスマスを
過ごす予定ですか・・?)
「CMあけます」ディレクタ-が合図する。
「それでは次のリクエストはたくあんさんから。変わったおもしろい
リクエストネ-ムですねぇ。僕にはたくあんにはツライ思い出があります。
いつか気が向いたら話しますが長くなるんで。でもこの季節は北海道も
漬物がおいしい季節ですね。僕は日本酒にキュッキュッとがいいなぁ。
今夜はシャンパンやめて日本酒はどうかな・?
ではリクエストの杏里の「スノ-フレイクの街角」僕もこの曲は好きです。
ではすてきなイブをどうぞ」杏里の曲を聞きながら僕は玲子の背の伸びた
しゃんとした、姿を思い出していた。彼女とシングルマザ-か。
恋に身をこがしちゃっていままでまっすぐな人生が揺れ動いてしまったのだろうか
でも僕は高校生の頃の澄んだまなざしをした玲子に恋をしていた。
ただ僕は自分と比べてしまっておじけづいちゃていたから告白とかは論外で
そんなところまで持っていきようがなかった。
曲が終わったとき僕は続きをしゃべった。
「またFAXくださいね。リクエストネ-ムたくあんさん」
ラジオの前で横顔のきれいな彼女が笑っていた。
「ねぇねえおかあさん。何にやにやしているの?」
彼女ゆずりの美しい娘が不思議そうに見つめていた。