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とどこの海中秘書室
20081115(土) 23:12

ギフトシーズン3 「赤いリング」

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香夏子さんの表情が、どこか余裕のまなざしで
僕を見ていた。
たおやかな仕草で、アイスティーを飲みほす。
こんな香夏子さんの顔が一番好き。
テーブルの下で私は、逸郎の手を絡めるように
握っていた。テーブルクロスに隠されて、
なにも見えない。そして、ジーンズの太股に触れ
ゆっくりなぞってみた。
くすっと笑い、逸郎の躊躇した顔を見ていた。
すると逸郎がたまりかねたように私の耳元で
「香夏子さん、だめだ」
「なにが・・?」
握っていた手に、さらに逸郎が力をこめた。
「ばかね・・痛いわ」

僕は留学のために短期の英会話の勉強をしていた。
大学とは違い、さまざまな年齢層のクラスだったから
よほどでない限り、親しくすることはなかった。
たまたま隣の席にいたのが香夏子さんだった。
なぜかポツポツ話しかけてくる彼女に好感があった。
「アメリカ留学ね。まだまだ選択肢が、若いからあるわよ」
「私は仕事で、向こうのクライアントと渡り歩かなきゃ
ならないから、強制的ね・・」
その雰囲気に魅かれた。
僕が香夏子さんと密接な関係になる時間はあっというまに
訪れた。
「好きよ。逸郎。」
「こんなに好きになっちゃってどうしよう・・」
逢うごとにそんなことを言っていた。
女性が初めてだったわけではない。
けど・・恋するというよりは完全に恋に落とされた。
こんなことあるんだ。真夏の日差しは誘惑する。
それしか見えない夏。
でも楽しかった。
でもそれは突然終わった。
それは英会話のクラスがラストに迫った頃。
「主人が、アメリカから帰国するの・・」
「どうして・・」
そう香夏子さんは結婚していた。
問い詰めたが「言えなかったの」そう繰り返す。
それきり連絡がなかった。
10も差のあるんだ・・それがなんだ・・。
それから10年が過ぎた。
僕は30歳になった。
今は外国人相手のバーを経営している。

40歳の香夏子が、その指輪を見つめている。
白黒の猫が様子をうかがう。
「不思議な石ですね。ルビー?ですか?」
その指輪には、赤い石がついていたが、少しルビーとは
輝きが違っている。
「僕にもわからないんですが、運命のリングと言われていますよ。その時がきたら赤い糸が見えるらしいです。」
「クリスマスにでもしようかしら」
香夏子をそのリングを買った。
また今年もひとりかしら。
私は離婚した。長いこと気持ちがもう離れてしまって
彼がアメリカを行ったりきたりに疲れた。
それが私と彼をへだてててしまったのかも・・今は思う。
クリスマスの街は賑やかだった。
逸郎は結婚したかな。
私も恋に落ちていた。
でも若すぎた・・彼がせつなかった。
あんなにキラキラしているのに・・。

(あいたいな・・)

ああ言うしかなかった。
指輪を見て見ると、その指輪が夜の街に雑踏に
まぎれて、糸のようなものが見えた。
そんなことあの店主言っていたわ・・そんなこと
「まさか赤い糸なの?」
香夏子にしか見えていないらしかった。
その糸を追いかける。その糸は「ペーパームーン」という
バーにつながっていた。
気になりながら香夏子はためらう。
思い切って開けてみた。
そのカウンターには黒い指輪をした男がいた。
その指輪から赤い糸がのびている。
二人にしか見えていない。
男が香夏子の顔を見ると驚いたように
「香夏子さん・・」
逸郎はそれだけ言うのがいっぱいだった。
香夏子の瞳は笑っていた。







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