「Iwant To Hold Your Hand (抱きしめたい)」
ラジオからビ-トルズが流れていた。夜の海。
雪がちらつきはじめている。
「もうじきクリスマスだね」
美樹は真っ黒な闇にかすかな光に降る雪を眺めている。
僕達は両親の再婚で兄妹になった。といっても年はひとつしか
離れていなくて同級生だったからあまり兄と妹という感じはしない。
中学の頃から美樹の事は知っていたから両親が再婚すると
聞いたときは本当に驚いた。
僕も美樹も中学を卒業後は別々の学校だったから
両親の再婚が持ちあがってから再会した。
いろいろな恋愛をして今はおたがい独り。
血はつながっていない微妙な関係。でも美樹のことは嫌いではない。
美樹も僕のことはおんなじぐらいに感じているように見える。
「お父さんが聴いていたんだっけ。」
「だからイギリスに新婚旅行に行ったんだよ。」
「あっそうか。」
「昔からビ-トルズ大好きでさ、家に帰るとかならず
どこかで鳴っていた・・・」
美樹は裕也に会ったときのことを思い出していた。
少し長めの髪の毛。
白いシャツ。スリムなジ-ンズ。
さらさらの髪が印象的だった。
クラスでもあまりめだたない。でもいたら楽しい話をしてくれそうな・・・
「そういえば裕也って初めて会ったときはジョンっぽかったよね」
「影響ばりばり」裕也は笑った。
「明日新婚旅行から帰ってくるね」
あくびをして美樹はハ-フサイズの毛布を首まで持っていった。
「寒いの?」裕也が暖房を上げようとすると
「いい。眠たいだけだから」
「でもさぁ びっくりした。裕也のお父さんと結婚するって
お母さんが言ったとき」
「世の中は広いようでせまいよな」
「帰ろうか。」雪は降り続いている。
時報がラジオから低く聞えた。
「ジョンの命日だ。」裕也は目を閉じて静かに祈る・・・
美樹も目を閉じた。ラジオはひきつづきビ-トルズが流れていた。
「1980年12月8日にニュ-ヨ-クのアパ-トで銃撃された
ジョンレノンはね、夜の11時に亡くなったんだけど、そのとき病院で
かかっていたのがこの曲オ-ルマイラヴィングだったといわれているんだ」
「偶然だろうけどね。ジョンは自分の曲を聴いて天国に行ったんだ」
「積もるかな」
「積もりそうだね」
「ウチに今夜泊まる?明日いっしょに空港行かなきゃならないし」
「なによ。それって。いっしょに寝ようとでも言っているの?」
裕也は苦笑した。
「何勘違いしてんだよ。寝てくれるなら嬉しいけどね。」
美樹は手を上に挙げてのびをした。
「こんな時間だし。コンビニでなんか買ってさ・・」
「のんびりジョンを追悼してビ-トルズでも聞きますか・・・」
裕也は穏やかな優しい顔で「じゃあ帰ろう」そう言った。
街の明りがキラキラ水平線に輝いている。ぼっとかすみがかったような雪が
幻想的だった。新婚ほやほやの二人の親がイギリスを満喫して戻ってくる。
今日はアビ-ロ-ドの夢でも見るかも知れないね・・・・