「結婚前夜」
佳子からその手紙が届いたのはクリスマスの1週間前だった。
「写真を整理していたら、こんな写真が出てきました。」
それは、はるか昔に俺らが、恋人という関係だった頃。
ハワイで撮った写真だった。
佳子が、近く結婚するという話は友人から聞いていた。
(なぜこんな写真を)
わさわざ送ってよこすなんて。
手紙の最後には「一度食事でもしませんか・・?」
そして携帯の番号がていねいに書かれていた。
俺にはうしろめたさがあった。
そういう別れ方をした。彼女だって同じぐらい傷ついたはずだ。
「久しぶり。連絡くれるなんて思ってもいなかったわ」
「結婚するんだってね」
「もらってくれるひとがいたから・・・」
「おめでとう」
佳子は明るい声で交わしてくれる。
食事の約束をして再会することになった。
「クリスマスイブにいいの?」
テ-プルをはさんで、俺は昔と変わらない
きれいな顔だちの佳子にたずねた。
「あっ、仕事なのよ。ひとりで過ごすのも最後だしね」
軽く乾杯をしてずっと佳子をながめている。
「ずっとみている」
「なんかさ、いろいろ思い出すんだ」
「時がたった感じ?」
「あの写真迷惑だった・・」
「どうして?」
「うれしかったよ」
「そっか。」佳子は安堵の表情を見せた。
「拓には彼女いないの?」
「ガ-ルフレンドはいるけど。彼女はねぇ。」
「だんだん恋もめんどくさくなるわよ」
「そのうちじいさんになっていたりして。やだやだ。」
今のふたりだったらやり直せるかもしれない。
でも離れた時間うめるには、かなりつらそうだな。
俺はそう思った。
食事をして外に出ると雪が降り出していた。
「あのさ」
「なあに・・」
「独身最後のクリスマスは本当に好きな人と過ごしたいと
思って、あの手紙書いたの」
佳子はたちどまって、ふいにキスをした。
何がなんだかわからなくなる。
佳子が「ごめんね」・・・・
そういうとそのままじっと、お互いだまっていた。
「やけぼっくりに火かよ」
「ちがうわよ」
振り絞るような声になる。
気持ちが加速していくのがわかる。
「わかっているよ。気持ちが戻っても戻れない・・・」
ふたりとも現実は意識していた。
手を握る。手を握り返す。また握って・・・・
声にならない快楽が繰り返すようだった。
「ここで・・」佳子がすっと手を離した。
俺は佳子を抱きしめた。
涙声でうんうんとうなづく。
「ごめんな。俺が幸せにできなくて。」
「ありがとう」
そういって今度は俺から佳子にキスをした。
にこっと笑って彼女は手を振った。
「幸せなってね、拓も・・・」
離れて手を振る佳子の姿をずっと見ていた。