周防の妻の遺影が、質素に飾られている。
葬儀の客もそんなに多くはなかった。
祭壇の前には、年こそは、重ねたものの、
なんら変わりないすっとした、背格好の周防が
妻の遺影を時折みつめては、来客に挨拶をしていた。
周防の娘もその子供と台所を行ったり来たり忙しい。
隣の部屋では、周防の息子が、同級生らしき知人と
話していた。
「ご愁傷様やったな・・」
そう挨拶したのは、白髪にすっかりなった
繊維組合長の三浦だった。
「・・どうもありがとぉございます。」
その後ろに、バツが悪そうに北村がいた。
何を話していいか、分からないという顔つきだったが
三浦にさとられ
「大変やったな・・」いつもの北村とは違い
蚊の鳴くような声で、かすかに聞こえるだけだった。
周防は、軽く挨拶をして北村を見た。
「きれいか顔やったです・・」
「苦しみもなかったばい・・」
三浦は「そうか・・」
ひとことふたこと、妻の事を三浦は、たずねていた。
後ろで、下を向いたままの北村は、ただ黙ったままで。周防の妻の遺影を最後まで、ちゃんと見ようとは、しなかった。
最後まで、知らんやったとか・・
心の中は、オイは、君を裏切っとったやと。
でもそれでは、いかんばい・・・
そいから、糸子さんを心にしもうた。
無心になって、子供たちば、育とった。
オイも・・・。
なんちゃかんちゃ・・
解き放たれた・・・
そがんことないばい・・
解き放たれた・・そがんことないばい・・
なんちゃかんちゃ~(すべて)の意味。