20191115(金)

2018年インド旅行記・4


2018年インド旅行記・4

私はシャンという男に不信感をずっと抱き続けていた。
前回の旅で、友人スニへの結婚祝いとして日本のチョコレートを持参したが、彼女は不在だった。
彼女の実兄であるシャンと知り合ったので、チョコレートを彼に託した。
彼を身内だからという理由で信用したのだ。

しかし、スニにはチョコをほんの少ししか渡さず、残りは彼が全部食べてしまったのだ。
シャンは約束を破った、と私は感じている。
この件に関しては、スニからは「お土産は本人に直接渡さないとダメ!」と私はきつく説教されていた。







マルコスのスマホで会話してから、1時間後にシャンが私の前に現れた。
彼は私の顔を見ると、いきなりガバッと抱きついてきた。
「嬉しいぞー嬉しいぞー」と叫んでいる。
こんなに喜んでくれるのか・・・
彼の無邪気な顔を見ていたら、自分のこだわっていた感情がどうでもよくなってきた。
結局、再会を祝って彼と抱き合うことになった。

「時間あるんだろう?俺の実家に行こう」
シャンが誘ってくる。
またしてもバイピーン島にあるシャンの実家に行くことになった。
彼のバイクの後部座席にまたがり、タンデムで出発。
気分爽快ノーヘル走行。
バイピーンは島といっても、フォートコーチンからフェリーで10分もかからない。
多くの庶民が暮らすコーチンのベッドタウンのような場所だ。

二人を乗せたオートバイは、民家の密集するシャンの実家に到着した。
玄関から家の中に入ると、いきなりシャンの部屋になっている。
「ん?」
ここは以前リビングだったような気がする。
キリストの祭壇は変わらず置いてある。

さっそくお土産をシャンに渡した。
マルコスと同じボールペンとブラックサンダー(チョコレート)のファミリーパック。
「おおーありがとう」
シャンはチョコを開封して、すぐ食べ始めた。
「シャン、そのチョコは日本で人気があるんだよ」
「そうなのか、やはり日本のチョコはうまいな」

シャンは魚カレーと食パンのスライスを2枚、そしてピクルスを運んできて、テーブルに置いた。
「食べてくれ。この貝のピクルスは美味いぞ」
料理があまりにも質素なので、本当に彼らが日常的に食べている感じがする。
これを食べるのも、良い経験になるだろう。
「さっき友人から電話があって、君のことを話したら会ってみたいって。あとで家に遊びに来るから」
チョコを食べながら、シャンが言った。

カレーに食パンを浸しながら、私はシャンに質問した。
「君は今、タクシーの運転手をしているのかい?」
「マルコスに聞いたの?そう、タクシーの運転手」
「給料はいいの?」
「正直よくない。生活は苦しいな」
シャンはつぶやくように言った。

この家に来て、気になっていたことが一つ。
重い障害を持っている妹が同居していたはずだ。
だが、近くにいる気配が感じられない。
入院しているのか?施設に入ったのか?それとも・・・
あまりにもデリケートな話題なので、本人が話さない限り黙っていようと決めた。

カレーを食べ終わったころ、シャンの友人が現れた。
長身のヒゲもじゃの青年。
シャンと同年代で職業はタイル職人。
彼の英語があまり上手ではなく、そこが私と似ていて親近感が湧くし好感が持てる。
普段の彼は英語を話す習慣がないのだという。
素朴で実直そうなムスリム(イスラム教徒)の青年だった。

「なぜ我々は、いい年して結婚できないのだろう?」
「まったくだ!こんなイイ男を放っておくとは・・・女どもは見る目がないな」
「こういう話はインドも日本も同じだ」

わーははは!

3人で馬鹿話で盛り上がっていると、シャンの母親が部屋に入ってきた。
彼女は前回の訪問で何度か会っているし、外国人の印象は強く残っているだろう。
だから私のことを覚えてくれている、と思い挨拶しようとした。

「母は君のことは知らない、覚えていない、と言っている」
首を振って残念そうな表情をするシャン。
シャンの母親は椅子に座り、トロンとした目でTVの画面を見ている。
「すまない、母は病気なんだ」
彼女は認知症が進んでいるようだった。
3年という月日は、こんなにも物事を大きく変えてしまうのだ。

つづく






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