20111231(土)

都市との交流がテーマだったこの一年


都市との交流がテーマだったこの一年

 今年の最大の出来事はやはり東日本大震災でした。あまりに悲惨な映像を目にし、被災された方々の苦痛はいかばかりかと思ったとき、私の牧場が牛舎火災の際に助けられたお返しをするのは今しかないと思い、身の丈を超えた額の募金をさせていただきました。そして、それを取り返すべく経営でのミスを最小化するのが今年の課題でした。おかげさまで、今年は草で乳を搾ったと実感でき、技術経営的にはまあまあの結果を残すことができたと思っています。自然の恵みと怖さ両方を味わった年でした。

 今年から本格的に始めたファームインは、「わざわざ田舎にやってきて泊まろうとする人に悪い人なんかいないのよ」というファームインの先輩の言葉どおり素敵なお客様に恵まれて、都市の人々との良い交流ができたと思っています。震災の影響か、こどもを自由に遊ばせてあげたいというファミリーのお客様が多かったようにも思いましたが、どんな人にも心休まる場所になり、また、食と農への理解を進める機会となるように務めました。私たちのファームインの名前‘Kuhnel’は、kuh(牛)に関係あるドイツ語のようですが、単純に「食う」「寝る」を横文字にしたものです。牛にとって、食うことと寝ることは生理生態上最も基本的なことです。歩きながら草をむしっているときはもちろん、寝そべって反芻しているときも、牛にとっては食べている時間です。そんな牛にとって自然で大切な生活の場である放牧地をながめながらのんびりと過ごし、そして、ここがミルクの生まれるところなんだと感じてもらえたらとの思いをこめてあります。

 修学旅行高校生や大手企業幹部研修の受入れを引き受けたのも、同様に農業への理解を言葉ではなく実体験を通して推進しようという主催者の意図に共感したからです。私たちがいかに真剣に生産活動に取組んでも、都市の消費者や中央の影響力のある人々が誤った農業・農村のイメージを持ったままでは、食と農の大事さを尊重し、国民に支持される農業・農村を作っていくことはできません。都会で生まれ育ったこどもたちにとって農産物はスーパーで並んでいるものであって、野菜が畑になっているのを見るのが初めてだった生徒たちもいました。分業化が進む中で、自分たちが食べるものがどうやって育てられ収穫されるか考えるきっかけになったと思います。大人も同様です。大手企業の部長クラスの研修生達も多くが、家族酪農では5、6頭の牛を手搾りするするイメージを持っていました。それが35~1000頭もの牛を機械搾乳し、高度で複合的な知識と技術によって成り立ち、しかし、重労働によって支えられている現実を目の当たりにして、ずいぶんと驚いていたようでした。この研修によって、彼らは「農家は努力不足で競争力がなく保護されている」との認識を改め、「牛乳は安すぎる」との声も聞かせてくれました。

 TPPには、おそらく、いくら反対しても突っ込んでいくのだろうと思います。問題は、農業が受けるダメージを所得補償によって解決できるとしていることです。農業のあるべき姿が共有されていればそれもありですが、どんな農業・農家に対して直接支払いしていくのかほとんど議論されていないのが現実ではないでしょうか。規模を拡大して競争力ある経営体を育てていくのか、環境重視の持続的農業を理想とするのか、そこが不明のままでは農家は先が見えません。国の中長期の農業ビジョンには、持続的な農業を重視する記述がありますが、実際に貿易自由化が問題になると規模拡大のみが注目されます。食と農の大事さを、農家や一部の消費者団体役員が訴えるのではなく、国民全体の関心事として共有できるようにするため、草の根での都市と農村の交流を続けていくことが非常に重要であると感じています。

 いろいろあった一年でしたが、農業サイドからの発信と都市との交流の大事さを感じた年でした。






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橋本てるあき
橋本牧場(酪農)場主

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