獣医(29)


2010915(水)

エキノコックスの話 3/3

獣医×29

続き

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これは血液中に含まれる抗体を調べたものです
エキノコックスを攻撃する抗体がどれだけあるか
それを調べました
簡単に説明すると数字が大きいほど抗体をたくさん持っていると言うことです

だから、1998年から減ってきていると言うことは抗体が減ってきていると言うことになります
抗体が何故減るのか?
それはエキノコックスがいなくなっていると言うことになります

そして、0.22と言う基準がヒトの検査基準にあります
この数字を境にして陰性(かかっていない)か?陽性(かかっている)か?
が判定されます
No.44は2年前と今年の検査両方とも陰性でした
(直ってきていると言うこと)
No.33も減少しているので良くなってきていることが分かります

余談
検査基準を下回っているのになぜ反応があるの?
それは、間違って反応する抗体があるからなんです
(非特異反応と言います)

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これはウエスタンブロッティングという検査方法です

抗体が抗原(この場合エキノコックス)のどこを攻撃しているかを検査するものです

Mはマーカーです
Mの横の50~15の数字は大きさを表しています
検査するものを上側に入れて下向きに流していきます
大きいものはゆっくりと動き、小さいものは早く流れていきます
だから、下に行くほど数字が小さいのです

Pはポジティブ(陽性)のPです
おそらく感染が確認されているヒトの血清を流してこの実験が上手くいっているか?キチンと反応しているかを見ています
対象実験というやつですね

そして、エキノコックスに特異的な(コレに反応したらエキノコックスに対して反応している!)18kDの位置に現れるバンドに注目しましょう

Pのレーンには当然出ています
No.33は今年になっても依然として反応していることが分かります

先ほどの実験と何が違うの?
先ほどは抗体がどれだけあるか?
この実験はその抗体がエキノコックスに対するものなのかを見る実験です

余談
ELISAはスクリーニング検査でWBは確定診断と言うことになりますね

スクリーニング検査
多量の検体を簡単に迅速に判定する方法
多少感度が悪くても良い
疑わしい検体も検出し2次検査(精密検査や確定診断)にまわします

確定診断または精密検査
費用や手間がかかっても本当にそれが病気かどうかを調べる検査
(この場合エキノコックスに対する抗体なのかどうか)

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No.44は2年前と今年ともにエキノコックスに特異的な18kDのところに反応が無く、陰性と判定されました

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と言うような内容です

ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました




その後キツネ対策と給餌対策、清掃対策を実施し現在までエキノコックスの発生を見ていません

目に見えない病原体は怖いものですが、闇雲に恐れることなく対策をとれば予防が可能です

これらの様なこと一つ一つがその後の飼育に役立っていることに間違いはありません




エキノコックスといえば、人間もかかる病気です。しかし、このサルから人間にかかることはありませんのでご安心下さい。

おびひろ動物園では対策を実施し現在まで新たな多包虫症の発生がありません

また、通常の衛生管理(手指洗浄など)を行えば感染することはほとんどありません

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特集・エキノコックス症について外部リンク


この記事のURL2010-09-15 22:17:49

2010914(火)

エキノコックスの話 2/3

獣医×29

続き

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黒線:H9.10.4感染が発覚した日
黄色四角:感染の可能性時期
水色線:投薬を開始
赤☆、四角:急性経過個体
緑☆、四角:慢性経過個体

いつ感染したか?
この13頭の生存期間の重なりと赤色の急性経過個体を考えるとほぼ同じ時期に感染したと考えるのが妥当かと思います
だから、1994(H6)年末から1996(H8)年初め頃が疑われます

何らかの原因でエサか水がキツネの糞(?)で汚染されたのでしょう

急性経過個体は'98.11~'99.4の間に5頭が死亡
投薬を初めて1年以内です
薬が効く間もなく亡くなったようです
4~12才のサルたちです

その他のサルは4年以上生存し
10~23才で死亡です
このサルたちは薬の効果があったのかなと考えています

No.44については今でも元気に生きています

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’99に死亡したNo.37の解剖写真です
右側肝臓に大きな腫瘤が見えます
また、腹膜に白い球体がたくさん見えます

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今年4月に死んだNo.44の3DCTです
胸腔から腹腔にかけて病変が見えます
大きな腫瘤が一つと小さな腫瘤がたくさん見えます

多包虫症というように
肝臓を中心に感染し多包を形成します
No.65では大きな腫瘤が数個あるだけ
No.37ではたくさん
No.33でもたくさん

急性で死亡したからと言って多包が多いわけではありませんでした
また、大きさもあまり関係なさそうです

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病変を拡大してみると

シストの外層には好酸性(赤色)に染まる多包虫症特有のクチクラ層が観察されます
その内側には寄生虫由来の胚芽層が観察されます
その内側に繁殖胞、そしてその内側に原頭節が観察されます
生体側は多核巨細胞など免疫反応が認められました
急性に死亡した個体に原頭節が確認できることがありました

キラキラと見えるクチクラ層があるとエキノコックス症と確定されるようです
ネズミや人間にも当然出来ます
胚芽層の核の大きさが外側のサルの細胞核と比べると小さいのが分かりますか?
原頭節(虫体)は繁殖胞の中で成長します
ここでは一つしか見えませんが普通は複数あります
ネズミになると一つの繁殖胞の中に多数の原頭節があります外部リンク
さらに繁殖胞もシストの中に多数出来て外から見ると部屋がたくさんあるように見えます
ネズミではネズミがエキノコックスを攻撃するような生体反応(免疫反応)をほとんど確認することが出来ません
ニホンザルは多核巨細胞や免疫細胞を反応させエキノコックスと戦っています

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今年まで生き残っていた2頭についてもう少し検査をしてみました
左の超音波写真
赤矢印のように石灰化病変が確認できましたがその他はよく分かりませんでした
ここに造影剤を入れると虫食い状にエキノコックスの活動病変を見ることが出来ました
まだ、エキノコックスをやっつけることが出来ていません
これはヒトの所見にとても似ています
2年が経過しその病変が石灰化し終息に向かっていることが分かりました

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上のX線写真
X線で確認できる病変はありませんでした
下の左の写真
1998(H10)年の超音波では肝臓に51.7~75x34.3~50.9mmの病変がありましたが
2008(H20)年のCTでは病変の痕跡が確認できるのみでした
2010(H22)年の超音波でも病変を確認できませんでした

つづく・・・

エキノコックスといえば、人間もかかる病気です。しかし、このサルから人間にかかることはありませんのでご安心下さい。

おびひろ動物園では対策を実施し現在まで新たな多包虫症の発生がありません

また、通常の衛生管理(手指洗浄など)を行えば感染することはほとんどありません

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この記事のURL2010-09-14 23:36:59

2010914(火)

エキノコックスの話 1/3

獣医×29

サル舎(青い風防ネットで囲まれた獣舎)
エキノコックスに感染したニホンザルが1頭います

その前に看板が2枚ありますが
向かって右側、枚数が多い方の看板の内容です
(看板作成後少し手直しした箇所もあります)

これは今月行われた野生動物医学会での発表と同じものです

中にはちょっと衝撃的な写真があります
(お気をつけ下さい)

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畜大の臨床獣医の方々にはX線、超音波、CTを撮っていただきました
畜大の基礎獣医の方々には病理を見ていただきました
道立衛生研究所外部リンクの方々にはELISA、WB検査をしていただきました

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北海道の人にはお馴染み(?)のエキノコックスの基本情報です
終宿主の腸の中で大人になり卵を産みます
卵は糞と共に排泄され
エゾヤチネズミ(中間宿主)に摂取され(口から入る)肝臓に寄生します
ネズミは弱っていき、キツネに食べられます
そして、寄生虫はキツネの腸の中で大人になり卵を産みます

おおまかにこんな感じです

野生ではキツネとネズミの間で生活環が回っています

終宿主としては身近な動物ではイヌが感染し卵を産みます
だから、みなさん検査を受けましょうね
山や公園で遊ばせている隙にネズミを食べているかもしれませんよ

ごくまれにネコにも寄生するようです

中間宿主としては家畜では馬、豚などに感染します
人間も感染します
サル類にも感染します

終宿主では薬で簡単に落とすことが出来ます
中間宿主では薬はほとんど効かず、人では外科的治療が必要となります

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平成9(1997)年10月4日午前
担当者よりサルが倒れているとの通報を受けました
ほぼ虫の息で午後には亡くなりました
夜、解剖をしていると
お腹の中に大きな腫瘤
中には白い液体が入っています
「化膿にしてはおかしいな?」
これを顕微鏡で見てみると
左下の写真
なんかいる!!!
多包虫症を確信し夜中に上司に電話
「どうしましょう?」
帯広畜産大学の家畜病理学教室に診断を依頼しました
右の2枚の写真
肝臓の中にエキノコックスを確認し確定診断されました

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対策を協議し飼育サル類全ての検査を実施すべく
ヒトのエキノコックス検査を行っている道立衛生研究所に相談
快く検査を引き受けていただくことになりました
飼育サル類全頭を採血し検査を実施
(ニホンザルのみでなく当時飼育していたサル類)
(ただし、チンパンジーをのぞく)

ニホンザル以外のサル類は全て陰性(感染していませんでした)
ニホンザル全57頭中9頭が明らかな陽性(感染)3頭が擬陽性(感染?)と言う結果となりました
陽性と判断された1頭については、結果を待たずに闘争が原因で死亡

11頭について超音波検査を実施し9頭に何らかの病変を確認しました

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今後の対応を協議し投薬治療を決定しました
対象個体をサル山から分けて飼育することにしました
(注意!サルからサルに感染することはありません)
確実に投薬するためには個別に飼育する必要があります
(さらに!めちゃくちゃ高い薬なので適切な投薬が必要になります)

しかし、

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次々と死んでいくことに・・・
左から園内番号(♂か♀、生年月日)死亡年月日(死亡原因)(死亡時年齢)
*13は生年月日ではなく入園年月日です
擬陽性(感染?)とされていたNo.56はどうやらエキノコックスでは無かったようです

つづく・・・

エキノコックスといえば、人間もかかる病気です。しかし、このサルから人間にかかることはありませんのでご安心下さい。

おびひろ動物園では対策を実施し現在まで新たな多包虫症の発生がありません

また、通常の衛生管理(手指洗浄など)を行えば感染することはほとんどありません

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この記事のURL2010-09-14 22:35:19

2010910(金)

三学会

獣医×29

三学会

年に1回の北海道獣医師大会外部リンク

今年は函館です

会場は湯の川温泉のホテル

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大会だけではなく宿泊もしてみたいものです



私は駅前の安宿
でもそこに知り合いの大学教授の先生も宿泊していました
私「こんな安いホテルでいいんですか?」
私「先生はもっと良いホテルに泊まってくださいよ!」
(ホテルの方に一部不適切な表現がありましたことをお詫びします)



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大会受付にて
みんな獣医さんなんですね!

私が何を発表したかは最上段の北海道獣医師会大会のプログラムから探してみてください(暇な方限定)

野生動物関係は公衆衛生のくくりになっています


この記事のURL2010-09-10 23:36:59

201096(月)

福岡は熱かったです!

獣医×29

福岡は熱かったです!

9月2~4日

福岡で行われた第16回野生動物医学会大会外部リンクに参加してきました

とても熱かったです
(中身も天気もです)

会場には前会長である増井先生の祭壇が置かれていました
改めて合掌

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今大会には「動物が好きだから」と言う副題が付けられました
増井先生の本からとられたものですが、なぜ動物と関わるのと言う問いに対する参加者大多数の姿勢でもあるのかもしれません

みなさんの熱い熱気と先端に触れることが出来ました

及ばずながら、私も発表してきました

夜は夜で久しぶりに再会した関係者と宴会です

今回はいつもよりも動物園水族館関係者の発表が多かった気がします
(私が発表するほどですから)

大盛況のうちに閉会

準備をしていただいた九州の関係者のみなさんに大感謝です

本当に九州の関係者のみなさんは活動的で見習うことしきりです

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帰りの飛行機の窓から見えた雲がキレイです
富士山はいつ見てもすばらしい


この記事のURL2010-09-06 20:53:11

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